長年にわたり、ASIC開発の最前線でプレイングマネージャーとして社内のLSI開発を推進してきた「技術バカ」として、今の日本の半導体復興施策のニュースを見るたびに、言葉にできないほどのもどかしさを感じていることがあります。
かつて花形だった日本の半導体設計は、現在では「数周回遅れのぼろ負け状態」にあります。しかし、この冷酷な現実をもたらした本当の原因は何だったのでしょうか。そして、いま国費を投じて進められている国家プロジェクトや技術開発は、本当に現場の設計者を救い、日本の製造業に「お気楽でクリエイティブな未来」を取り戻せるものになっているのでしょうか。
今回は、先端開発についていけなくなったASIC設計者を救う光明として期待したい「MinimalFab(ミニマルファブ)」と「Chiplet(チップレット)」、およびRapidus社が挑戦する完全枚葉式(シングルウェハ)生産について、現場の第一線を戦ってきた設計者目線による「リアルな提言」を交えて、真に半導体設計が目指すべき姿を語ってみたいと思います。
栄光の過去と「三重苦」がもたらした自滅の歴史
2000年代初頭のゲートアレイ(GA)全盛期には、世界的に見ても日本の半導体設計力は圧倒的に強く、それだけに優秀な設計者の数も非常に多かったです。EDAベンダーにとっても、日本市場は魅力的で外せない巨大マーケットでした。
しかし、ムーアの法則に従って設計規模が巨大化・複雑化していくにつれ、ファブ(半導体製造工場)を維持・進化させるための投資額は、従来の「数千億円」から、もはや国家予算レベルの「数兆円」という天文学的な規模へと爆発的に高騰していきました。
これほどの巨額投資の継続を前に、日本の賢い経営者たちは、設計から製造までを自社で抱える垂直統合型(IDM)モデルの維持を早々に断念。日本の大企業から半導体製造部門の撤退・売却が相次ぎ、最終的に日本国内から最先端ファブが完全に消え去る自滅の歴史を辿ったのです。
実際、日本はとうに最先端IDMの道を諦めてしまっており、製造プロセスの核心であるEUV(極端紫外線)露光装置などのコア技術は100%オランダASMLの独壇場。自前の技術だけではもはやどうにもならないのが現実です。いま世間を賑わせている熊本のTSMC誘致も、冷徹に言えば多額の補助金を餌に「海外大手のファブを日本に置かせてもらっている」にすぎません。一方で、北海道・千歳では、日本の最後の砦として日の丸ファブ「Rapidus」を立ち上げるべく、2nm世代の超先端プロセス実用化に向けたプロジェクトが今まさに命運をかけて推進されています。これについては、一人の技術屋としても、なんとか死に物狂いで頑張って成功させてほしいと、心から応援しています。ですがそのラピダスにしても、米国IBMやベルギーのimecといった海外の巨大研究機関と密接にアライアンスを組まなければ、最先端プロセスに1ミリも追随できないのが日本の技術力のリアルな立ち位置なのです。
このような、半導体製造拠点の消滅と設計者の激減に加え、今なお現場に残されたまま何も変わってないことが、ASIC開発の「三重苦」なのです。
- 生涯必要数が数千個という、ファウンドリに相手にもされない「少ロット」
- 数ナノ世代で数十億円にも及ぶ「高NRE(開発初期費用)」
- 一発のバグで事業が飛びかねないプレッシャーという「シンドイ仕事」
この三重苦を前に、私自身もN7(7nmプロセス)以降の先端開発には見切りをつけざるを得ませんでした。もはや普通の製品ビジネスの規模では、ASIC開発を健全に継続することなど原理的に不可能な時代になってしまったのです。
「10年遅れの光明」に潜む致命的な認識不足
そんな、かつてない暗黒期を迎えた日本のASIC開発において、いくつかの次世代技術には期待しつづけているものの、その実態を見ていると、デジタルLSIの設計者としては「その期待感は幻想にすぎず、現場のリアルな技術構造をまるで見ようとしていない致命的な認識不足」に、深い危機感を覚えざるを得ないのです。
MinimalFab(ミニマルファブ)の限界と「本当の目標設定」
その代表例が、「装置コスト1/1000」をコンセプトに、クリーンルーム不要のハーフインチ(12.5mmウェハ)製造を目指す「MinimalFab(ミニマルファブ)」です。
超高額な先端ファブの製造装置群を「数億円」程度に抑え、それこそ「ASIC開発をお気楽化」する初期の思想自体は、確かに極めて画期的なものでした。
しかし、このMinimalFabが登場してからすでに20年以上が経過しているにもかかわらず、現在製造可能なプロセスノードは、いまだに「350nm(0.35μm)〜 500nm(0.5μm)」というそれこそ30年前とかわらない大昔の世代で立ち往生しています。
これは開発企業が「技術革新を怠っていた」からではありません。少人数・小スペースで完結する簡易的な装置構成のまま、平面プレーナ技術の微細化を100nm以下へ進めること自体、物理的・構造的な制約から、同じアプローチでは「原理的に不可能」だったからです。そのため、彼らも生存戦略として、目標を「一部の教育機関や、微細化を必要としないアナログ・パワー半導体の試作」に限定せざるを得なかったというのが、技術的な真相だろうと推察しています。
教育機関で学生が半導体の基礎を学ぶための意義を否定するつもりは毛頭ありませんが、本気で国費を投入し、日本の最先端の「ものづくり製造業と設計力」を取り戻そうとするなら、MinimalFabの思想がこの古いプロセスノードで止まっていたら全く話になりません。
私たちが真に目指すべきなのは、MinimalFabの持つ「製造システムを極小化・簡素化する」という思想より、国費を投じてでも露光装置などのボトルネックに最新のブレークスルーを起こし、「装置コストを1/1000とはいかなくても1/100程度に抑え、平面プレーナ技術で十分に実用的な『28~65nm世代』の製造環境を数十億円規模で構築する」という、極めて現実的なレベルへと目標を再設定した新たなプロジェクトを立ち上げなければなりません。そうして開発のイニシャルコスト(NRE)を、かつてのゲートアレイ全盛期のように「数千万円」へと引き下げることができれば、日本の半導体設計の裾野は一気に広がり、製造業の真の復興への道が開かれます。
なぜ「65nmプロセス」以下が絶対条件になるのか
では、悪くても「65nm」を望むこの数値はどこに起因するのでしょうか。アナログ半導体ならいざ知らず、現代のデジタルLSIにおいて、MinimalFabで実現可能な4半世紀前のオモチャのような巨大なプロセスで設計しても、最先端で要求される機能とは性能的にかけ離れすぎており、全く実用的なビジネスになりません。
そして何より、後述する「Chiplet(チップレット)技術と組み合わせて最先端半導体設計技術をアップデート」という戦略を成り立たせるために、ここが最も致命的な「絶対防衛線」となるからです。
Chiplet同士を接続するためには、高速かつ超広帯域なダイ間(Die-to-Die)インターフェースが必要不可欠であり、そこには最先端の高速シリアル通信回路(SerDes)を混載しなければなりません。
この超高速SerDes(例えば数Gbps〜数十GbpsのUCIe物理層やPCIe PHY)を、トランジスタの動作速度やシリコン面積、消費電力のペナルティを現実的なPPAの枠に収めて実装できるプロセスの物理的限界が、まさに「65nm」あたりと考えています。
90nmまでならPHY新設計での実現性は可能かもしれませんが、これより古い130nmや0.18μmなどの世代では、高速SerDesを実装しようとしてもトランジスタ自体のスピードが遅すぎて物理的に動作すら不可能であり、無理に組もうとすればSerDesマクロだけでチップ面積のすべてを食いつぶしてしまいます。国費の投資判断を下す上層部や官民の半導体投資推進派は、この「SerDesを筆頭とするIPの入手性有無がプロセスを縛る」という設計実務者なら誰もが把握している「基本のき」をどのように理解されているか一度伺ってみたいものです。
Rapidusの完全枚葉式に対する懸念
一方、日本の半導体製造の最後の砦として業界の期待を背負って立ち上がったラピダスは、2nmという世界最先端の超微細化領域に挑むと同時に、従来の「バッチ(一括)式」とは異なる「完全枚葉(1枚ずつ処理する)式」の一貫生産システムの確立を目指しています。
枚葉式によって仕掛かりの滞留時間を極限まで削減し、プロトタイプの製造リードタイムを劇的に短縮するアプローチですが、これに関するNREに関わる懸念事項は「確信犯」として公の目に晒されることなくやっているはずです。最先端2nmを追うという過酷なビジネスモデルと、少量多品種のTAT(ターンアラウンドタイム)短縮を両立させるためには、経営資源をここに集中させるしかないと彼らこそが誰よりも熟知しているからです。
しかし、冷静にビジネスとして評価したとき、この「ラピダスの完全枚葉式では、一般企業のASIC開発コスト(NRE)を1/100に引き下げて設計の裾野を広げることは原理的に不可能である」という、根本的な構造問題に私たちは目を向けなければなりません。
なぜなら、ラピダスを立ち上げた主要メンバーの多くは高価な「製造装置メーカー」の出身であり、官民のビジョン策定側も含めて、「ASIC開発を阻んでいる最大の原因は、ファブのリードタイムよりも寧ろ設計段階における天文学的なNRE(初期開発・マスク代)である」という、開発現場の最大の痛みを根本的に解決しようとしてないからです。
どれほど製造リードタイムが短くなろうとも、マスク代に数億~数十億円を支払わなければならない構造のままでは、ASIC開発の参入障壁は1ミリも下がりません。残念ながら、今の政府のビジョンや政策から、こうした設計現場の致命的な課題に寄り添う泥臭いリアルな提案が聞こえてこないと感じているのは私だけでしょうか。
パッケージングの世界に潜む想定外の絶壁
ラピダスのような製造リードタイム短縮の取り組み、あるいはMinimalFabのような極小ファブ構想。これら「前工程(ウェハ処理)」における技術議論は盛んですが、実務で最先端SoCを開発しようとしたとき、現場の設計者を絶望させる「もう一つの巨大な絶壁」が存在します。それが「後工程」、すなわち「パッケージング(2.5D/3D実装)」の世界です。
いまから5年ほど前、私はある産学連携プロジェクトにおいて、7nmプロセスをターゲットとした「全社で使い回す汎用エッジAIチップ」の共同開発リーダーを務めていました。
7nm世代の超先端プロセス開発など、普通の一企業が単独で手を出せる領域ではありません。しかし当時は、産学連携の枠組みを大いに活かした国費(補助金)が期待できたこと、そしてビジネス上のゴールが「まずは最先端プロセスでの試作開発(量産はその後)」と定義して進めることが社内で許されたからこそ、なんとかスタートラインに立つことができたのです。
しかし、いざ本命である「AIエンジン同士を物理的に縦に積み上げる(3D積層)」、あるいは「チップレットとして高密度に接合する」という実装フェーズの検討に差し掛かったとたんに、私たちはパッケージングにまつわる想定外の巨大な壁に直面することになりました。
もちろん、これまでの先端ASIC設計において、HBMをロジックダイ上の積層やシリコンインターポーザで接続するような「メモリ積層」の量産経験は十分にありました。それなくして、現代の最先端ASICなど作れるはずがないからです。
しかし、このDRAM積層の事例は、DRAMという「業界標準の共通デバイス」を積層するために、TSMCなどの超巨大ファウンドリが最初から完全にパッケージングまで一貫してお膳立てした「既製のターンキー・ソリューション」として準備が整っていた技術として提供してくれていたからこそ、お気楽に利用できていたにすぎなかったのです。
ところが、いざ「自前で開発するカスタムASIC同士を、物理的に積層(3D/2.5D)して動かそう」と構想した途端、難易度は天文学的なレベルへと跳ね上がります。
ファウンドリはカスタムダイ同士の複雑な接続や熱設計、パッケージの信頼性を「自社の標準メニュー」としては一切保証してくれません。そのため、私たちは設計の初期段階から、世界のOSAT(半導体後工程の組み立て・テスト受託)ベンダーや基板メーカー、さらには材料・装置メーカーなど、多方面のサプライチェーンを自分たちで駆けずり回って繋ぎ合わせ、技術協力を仰がなければ成しえない一見するとローテクのように見えても、実は最先端の超ハイテク技術の塊だったことを初めて知ったのです。
「試作の段階で、研究室レベルで数個だけ動くものを作る」ことなら、恐らくなんとでもなります。しかし、それを「実製品として安定した歩留まりで量産ラインに乗せられるか」となると、誰一人として明確な見通しを立てることはできません。
実際、TSMCなどの先端ファンドリと話しをすることはできましたが、そこで待っていたのは、やはりあの「三重苦」の冷酷な焼き直しでした。
「エッジAIは技術的には確かに面白いし、不可能ではない。で、生涯の生産数量(ボリューム)はどれだけコミット(確約)できるの?」
そう、冷静に問い返されるだけでした。数千万個クラスの化け物製品のビジネスを前提にラインを回している巨大ファンドリや一流OSATにとって、生涯数量が見栄を張っても数十万個レベルの「数量をコミットできないカスタムビジネス」など、どれほど技術的に崇高であっても、ビジネスとしてはハナから相手にされない(投資する価値がない)というのが当たり前の現実だったのです。
「本当にやりたいこと、そして日本の製造業を救うための真のイノベーションを実現するには、前工程(ウェハ微細化)だけを追ってもダメで、後工程のパッケージングを含めて、クリアしなければならない分厚い物理的・ビジネス的な壁がいくつも立ち塞がっている」
このことを、私は身を以て痛烈に体験してきました。そして、この「異種ダイを繋ぎ合わせることの恐ろしいほどの難しさ」に対する問題意識が、その後のChiplet技術や、私自身が10年前に構想した幻のプロジェクトを再評価しなければならないと考える原動力なのです。
Chiplet技術が示す「自社レゴブロック」内製の価値
ASIC開発を本当の意味で「お気楽」にするための、もう一つの極めて強力な柱が 「 Chiplet(チップレット) 」 技術です。
しかし、Chipletは「夢の相互接続」だと単純な理解をしてはいけません。ASIC開発の現場を知る設計者としては、ここに潜む「不都合な真実」に目を向けておく必要があります。
PCIe認証の経験から見た、UCIeの「接続保証」の限界
現在、世界的な大手半導体・IPベンダーが合意した 「 UCIe(Universal Chiplet Interconnect Express) 」 という標準接続規格への一本化が急速に進んでいます。
かつて、私はPCI Express(PCIe)のGen1、そして次世代のGen2インターフェースをサポートするASICを自ら開発・検証した経験があります。PCIe規格に準拠し、製品に正規の「ロゴ」を冠するためには、標準化団体である 「 PCI-SIG 」 が主催する極めて厳格な認証試験である 「 コンプライアンス・ワークショップ 」 へと実際の検証ボードを物理的に持ち込み、プロトコルアナライザを接続して、コンプライアンステストをすべてパスしなければなりませんでした。物理層(PHY)の電気的特性から、データリンク層、トランザクション層に至るレイヤーごとの分厚いテスト仕様書を精査しなければならない泥臭い経験です。
UCIeの標準化プロセスも、まさにこのPCIeと同じ厳格なレイヤー構造やコンプライアンス検証の思想を汲んできているはずなので、物理的な信号線レベル(PHY)やアダプタ層レベルでの「コンプライアンステスト規格」が、当然存在していると思います。
しかし、最大の課題は、 「 どれほど物理的なインターフェース規格が同じであっても、異なるメーカーが作った他社製チップレット同士の100%確実な論理接続・動作保証など、原理的に不可能である 」 という冷酷な事実です。
PCIeのように「単にデータをA地点からB地点へ確実に転送する」だけの汎用トランザクション規格であれば、プロトコルの定義によって接続性を保証することは十分に可能です。しかし、Chipletとして接続されるダイ(チップ)同士は、独自の画像処理エンジンや特定のアクセラレータ、カスタムCPU、特殊な外部インターフェース仕様など、「アプリケーション固有の極めて複雑でダイナミックな機能ブロック」そのものです。
これらの機能ブロックが要求する、時系列の細かなタイミング要求や、内部ステートマシンの複雑なハンドシェイク、調停アルゴリズムといった固有の論理仕様を、一律の接続規格として「原理的に策定できるはずがありませんし、そもそも画一的なルールに押し込んで策定すべきでもない」のです。
したがって、規格が同じだからと、他社製のチップレットをネットショップで部品を買うように集めてきて、インターポーザ(接続基板)に載せれば一瞬でシステムが動くだろうという「Chiplet混載の甘い夢」は、現実を直視しなければならない実務レベルでは妄想にすぎません。
動画コーデックのプロセス世代間移植における無駄と、本当のChipletの価値
では、私たちが真に目指すべきChiplet戦略の本質はどこにあるのでしょうか。それは、他社製ダイとの不確実な接続を追うことではなく、 「 自社が開発して完璧に検証し尽くした独自の機能モジュール(IP)を、自社専用のChiplet(ダイ)として資産化し、レゴブロックのように組み合わせて派生展開する内製化シナリオ 」 にあります。
私自身、これまでの開発キャリアにおいて、ASICに搭載する「動画コーデックIP」を、プロセスの微細化に伴って 65nm ⇒ 45nm ⇒ 28nm ⇒ 16nm ⇒ 14/12nm と、実に5世代にわたってアップデート(移植)し続けるという不条理な経験をしてきました。
敢えて誤解を恐れずに振り返るなら、少なくとも28nm以降の世代においては、当該動画コーデックの本質的な処理アルゴリズムや機能自体に、進化や変更の必要性はありませんでした。それなのに、他の機能起因やプロセス更新(ファウンドリのシュリンク)のたびに、ターゲットプロセスに合わせて、膨大な工数を割いて「再レイアウト(配置配線、タイミング収束、物理検証)」を一から繰り返すという、極めて非効率で不条理な設計作業を強いられたのです。
もしも、あの28nmの時点で完動が確約されている動画コーデック機能を、独立した単一の 「 28nm Chiplet(完成品ダイ) 」 として物理的に確立できていればどうだったでしょうか。それ以降の16nmや12nmといった最先端SoC開発において、コーデック部分を再設計する必要は一切なくなり、システム移行にかかる莫大なNRE(初期開発費用)は間違いなく「数分の一」へと劇的に抑えられていたはずです。
一度焼き上げたお気楽なカスタムダイを、プロセスの更新に振り回されることなく、次世代のプロジェクトでもそのまま使い回すことで、開発費を究極まで削減しつつ、生涯数量増に貢献し、異なる機能パッケージを瞬時に組み上げる。これこそが、少ロット・高開発費の三重苦を解決する「Chipletの価値」なのです。
10年前に描いた未来:幻の「半導体レゴプロジェクト」
実は今から10年ほど前、まだ世の中に「Chiplet」というカッコいい呼び名すらなかった時代に、私は独自の3次元チップ積層アライアンスを策定しようとした経緯がありました。
「半導体レゴプロジェクト」と名付けたその幻の次世代プラットフォーム提案の骨子には、今まさに時代が求めているブレークスルーの核心が詰まっています。
- 定型サイズの機能ブロック化(ここがミソ)
- 任意の機能ダイを、1mm角、2mm角、4mm角といった「キッチリ定型化された矩形サイズ(レゴブロックのポッチのようなもの)」で仕様化。既存IPをカットダウンして再利用し、設計NREを徹底的に削減。マルチプロジェクトウェハ(シャトル)を積極的に活用し、格安の初期費用で「ブロックピース(ダイのバリエーション)」を揃えていく。
- 物理・論理の接合仕様のアライアンス規格化
- ダイ間を接続する物理的なコンタクト形状や伝送スペックを物理規格とし、内部をつなぐバス仕様(AMBA/NoCなど)を論理規格として厳格に策定。さらに、このプラットフォーム(PF)の上に載った複数のダイ構成を自動的に認識して制御する「ドライバ仕様(ソフトウェア)」までを一貫して定義する。
- IPを完成したダイ(半導体ピース)として売る新規エコシステムの立ち上げ
- メモリ、CPU、DSP、AI、ISP、コーデック、FPGAなどの各種機能を、それぞれに「最も適した任意のプロセス(最先端である必要はありません)」で個別に製造し、ブラックボックス化された「部品」としてユーザーに販売する。
- 一般ユーザーは「インターポーザ(接続基板)」のみを開発
- これにより、ユーザーの開発費(NRE)を1/100にまで劇的に削減。ユーザーが実現したい無限のアイデアを、先端ASICの圧倒的なPPAパフォーマンスを享受しながら、画期的な超低価格でお届けする、まさにラズパイ夢の拡張を実現する。
- 接合仕様と熱対策のブレークスルー
- 異種プロセスダイを立体積層・高密度接合する際の電気的接続と、3次元構造特有の熱をいかに逃がすかという排熱問題(熱設計)の規格化。
当時、この提案を社内のパテント部門等に持ち込みましたが、技術的な整合性や未来の価値は評価されたものの、直近の自社製品の売上に直接結びつかない壮大すぎるアイデアを汲み上げる仕組みがそもそも社内に存在せず、予期したとおり本気で取り組む前にボツになってしまいました。その後、改めて某大学発の産学連携プロジェクトの中で改めて再提案する道を探りましたが、私の力不足もあり肝心のプロジェクトアライアンスを維持するための継続的な費用を会社から引き出すことができず、夢の半導体レゴブロック構想は、まさに幻となったのです。
10年前の時点で、会社を辞めてでもこの技術のために突っ走る選択を選ばなかったことに後悔はありません。しかし、「もしあのとき、半導体部門でもない私が、後先考えずに強引にこのレゴブロック構想を自力で立ち上げ、国費を巻き込んででも推進する道を選んでいたら、どうなっていただろう」という思いは、今でも胸の奥に残っています。私が頑張りきれなかったことが、結果としてその後の「日本の半導体設計の自滅」に少なからず拍車をかけてしまったのではないか、というもどかしい思いとして残っているというわけです。
日本の設計復興を共に勝ち取るための「2つの指標」
私としては10年遅れの提案とはいえ、今からでも諦める必要はありません。
ASIC開発における最大の難関である「PPAの浪費」と「高NREの地獄」を、真の意味で解決し、日本のものづくりの底力である設計力を復興させるために、私たちは以下の「2つの明確な指標」を共通目標として掲げ、声を大にして訴えていくべきです。
① 製造装置のコストを「1/100」へ:NREを劇的に下げるための現実的なファブ構想
私たちは、MinimalFabのように「装置を手のひらサイズ(ハーフインチ)にまで極小化すること」そのものを求めているわけではありません。本当に解決すべき本質は、青天井に暴騰を続ける最先端の露光装置やファブ建設コストの連鎖を断ち切り、「ASIC開発側が負担しなければならない初期開発費用(NRE)を下げる」ことにあります。そのためには、まず製造装置自体のコストを下げることが大前提となります。
最先端の数ナノメートルという極限の微細化プロセスを追うことは諦めざるを得ませんが、だからといって「機能としての最先端」まで諦める必要はありません。ただし、すでに述べた通り、各種の接続規格で用いられている高速SerDes(シリアル通信回路)が実装できなければ、デバイスとしては事実上使い物になりません(現在のMinimalFabがデジタルASICで役に立たない理由は、まさにここにあります)。
私たちの理想とする究極の着地点は、平面(プレーナ)技術の事実上の到達点であり、今なお最もコストパフォーマンスに優れる「28nmプロセス」を、既存設備の再利用や効率的な枚葉システムなどによって「1/100の製造コスト」で回せる環境を国内に確立することです。28nmでこれが実現できるなら、リーク電流は気になりますが、お気楽ASIC開発の理想形です。
しかし、製造装置の新規開発コストやファブ全体のトータルバランスを現実的に天秤にかけたとき、仮に「65nmプロセス」であったとしても、1/100のNREコスト削減が達成できるなら、それは十分に「妥協可能なライン(絶対防衛線)」となります。65nmであっても、工夫次第で実用的なSerDesをPPAのペナルティに目をつぶって実装でき、十分な最先端機能パッケージを構築できるからです。
要するに、プロセスノードの数字そのものに固執しているわけではありません。「装置コストを1/100にし、SerDesを混載できる28nmから65nmの間の現実的なプレーナプロセスを低価格で提供する」ことで、デバイス製造単価や開発費へ不透明に上乗せされる装置コストの悪循環を、自社の知恵で断ち切ることが重要なのです。
② 半導体開発初期費用(NRE)を「1/100」へ:裾野を広げるための「数千万円開発」の再来
かつてのゲートアレイ(G/A)全盛期から90nm世代初期のような、「数千万円レベルで一品種をテープアウトできる1/100の低NRE環境」を、今こそ国内に取り戻す必要があります。
開発初期費用(NRE)がこの数千万円というお気楽な領域にまで下がれば、生涯の必要ロット数が1万個未満という業務用機器や、特殊な産業向けカスタム製品、あるいはスタートアップの革新的なアイデアであっても、初期費用を悠々と回収できるようになります。(開発ツールにかかる費用削減については別途詳述)
最先端のナノメートル競争からは賢く一歩身を引きながらも、実用性能において最先端チップと完璧に渡り合える、お気楽で裾野が極めて広い「独自の半導体設計・製造エコシステム」を、日本国内に強固に構築する。これこそが、日本の設計力復興に向けた、最も現実的で最強のロードマップなのです。
まとめ:日本の半導体設計力、そして製造業の復活に向けて
もっと前にこれらMinimalFab思想が目指すべきビジョンや、Chiplet(レゴブロック)技術に社会が本気で触れ、自社で動かせる環境が手元に整っていたら、開発コストとプレッシャーの三重苦に苦しんだ私たちの30年は、全く違う、最高に「お気楽」で楽しいものになっていたはずです。
しかし、私の怠慢で少なくとも10年遅くなってしまったかもしれませんが、今からでも決して遅すぎるということはありません。
特にデジタル半導体の開発において、幾多の不条理に苦しめられてきた私たち設計者は、往々にして技術に真摯で、おとなしく優しい「いい人」ばかりです。そのため、問題の構造や「国費の投資先がズレていること」に気づいていても、決して声を上げるような大胆なことができません。
だからこそ、Myoken Researchが、まさに文字通りの微力ですが、日本の将来のために、この不条理な現実に声を大にして「真実」を叫び、警鐘を鳴らし続けなければならないと考えています。
私たちが目指すべき復活のロードマップは明確です。
- 「装置コストを1/100に抑え、平面プレーナ技術で十分に実用的な製造環境を立ち上げる」
- 「開発NREを1/100(数千万円規模)に抑え、生涯数量が数千個の少ロットでも容易に回収できる、設計の裾野が広い真のエコシステムを構築する」
この論点と、技術の裏側にある「本当のトコロ」は、現場を戦い抜いてきた本物のエンジニアや、経営の未来を見据えるスマートなリーダーの皆様であれば、必ず深く理解していただけるに違いありません。
お仕着せの国家プロジェクトに期待しているだけでは心もとないため、私たち現場の知恵を結集し、本当に戦える「お気楽で最強の設計プラットフォーム」をいっしょに作り上げ、政府に、そして世界に向かって声を上げていきませんか。
Myoken Researchは、貴社の開発現場に「お気楽でバグのない、最高にスマートな開発環境」を構築する強力なアドバイザーとして、30年の実務で培った経験と知見のすべてを提供し、全力でサポートいたします。
日本のものづくり、そして半導体設計の輝かしい未来を取り戻すための挑戦を、今こそ私と一緒に始めましょう。皆様からの熱いお問い合わせやリクエストを、心よりお待ちしております。
参考文献・リンク
- 時代を先取りした幻の3次元Chiplet(レゴブロックプロジェクト)提案
- MinimalFab技術の現状とナノオーダー移行への課題
- お気楽ASIC開発に欠かせないFPGAプロトタイピングの極意
- OSSでどこまでできる!




